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技術の進歩による医療費増加を認めない矛盾[お茶の水だより]

No.4881 (2017年11月11日発行) P.16

登録日: 2017-11-09

最終更新日: 2017-11-09

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▶高齢化に伴う医療費の伸びは認めるが、医療技術の進歩による医療費の伸びは認めない─。このような方針を政府が採り続けている。それは一昨年の『骨太の方針2015』から始まった。この時、医療経済学者の二木立氏は「医療費増加の主因は人口高齢化ではなく医療技術の進歩であるという医療経済学の常識に基づくと(中略)史上最も厳しい医療費抑制方針」と評した(本誌No.4760)。
▶2018年度診療報酬改定に向けて財務省は全体で2.5%以上のマイナス改定にすべきと提言した。その理由も医療費の伸びを“高齢化等の範囲に収めるため”だ。厚生労働省によると、2015年度の医療費は対前年度比3.8%の増加で、このうち高齢化分は1.1%。それ以外は薬剤費が1.8%、技術料が0.9%だという。厚労省は病床の機能分化・連携、重複・多剤投与の防止、薬価の適正化などを進め医療費の伸びを抑制する方針だ。
▶一方で、政府は医療分野を成長戦略の柱に据えている。『未来投資戦略2017』では、健康寿命延伸の目標を実現するため保険診療に関する具体策を明記した。例えば、ゲノム医療を推進するための「最先端のがん治療の保険適用を行う」方針、遠隔診療を推進するための「次期改定で評価を行う」方針等だ。医療技術の進歩にアクセルとブレーキを同時に踏んでおり、矛盾している。
▶これ以外にも多数の新規医療技術に関して学会が保険収載の提案を中医協に行っている。現状では新規医療技術を公的医療保険で広く患者の元に届けるためには、その分他の医療費を削り財源を捻出しなければならない。医療財源が実情に合わない政府方針に縛られ続けることで、地域医療に混乱が生じることを危惧する。

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