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【私の一冊】渋江抽斎

No.4881 (2017年11月11日発行) P.73

住谷 哲 (日本生命済生会付属日生病院糖尿病・内分泌センターセンター長代行)

登録日: 2017-11-07

最終更新日: 2017-11-07

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  • 渋江抽斎への熱い思いを晩年の森鴎外が淡々と記した、史伝の代表作。岩波文庫などに収録。本作と「伊澤蘭軒」「北條霞亭」を合わせて鷗外の史伝三部作とされている

    鷗外が自己を語った史伝

    「渋江抽斎」は文化二年(1805年)に生まれ安政五年(1858年)、江戸にコレラで歿した、医師であり文献考証家でもあった渋江道純(抽斎は号)の伝記である。伝記とはいうものの、そこに記されているのは時間的、空間的に彼と何らかの関連を持ったあらゆる人物や出来事であり、抽斎はその大パノラマのごく小さな一部に過ぎない。人物や出来事についての博識ぶりは驚くべきであり、症状・症候を細大もらさず記述する医学者としての鴎外の一面が見て取れる。

    では鴎外をここまで突き動かしたのは何だったのだろうか? それは、以下の箇所を読めば明らかである。「(抽斎は)その跡が頗るわたくしと相似ている。(略)わたくしは抽斎を親愛することが出来るのである(その六)」。鴎外は抽斎という理想像を見出して素直に感動したのである。嬉しくて堪らないのである。つまり抽斎という自己の親愛できる人物に対する感動と共感とが鴎外を突き動かしたのだ。

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