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松本良順(5)[連載小説「群星光芒」289]

No.4878 (2017年10月21日発行) P.70

篠田達明

登録日: 2017-10-21

最終更新日: 2017-10-17

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  • 元治元(1864)年7月、長州藩兵が御所を襲撃して蛤門の変が生じた。

    このとき京都守護職松平容保侯の私設護衛役だった新選組の活躍がきわだち、中でも近藤 勇の名が喧伝された。

    それから3カ月後、その近藤 勇が突然、江戸医学所のわしの許を訪れた。新選組ときいて門人たちは震え上がったが、わしはためらうことなく頭取室に招じ入れた。

    「雷名轟く松本良順先生の教えを乞う」

    近藤は底力のある声でそう言い、
    「いまや国内情勢は紛糾して憂うべき状態だが、それより注意すべきは外国の動向である。松本先生は外人と交わり外国の事情によく通じ、もっぱら洋学をもって人を導くときく。ぜひご高見を承りたい」

    わしは悦んで話した。

    「一概に西洋諸国といっても大小さまざまな国があり、互いに境界を接して隙を窺っている。依って西洋諸国は競うように軍備を整え、最新兵器を創りだし、しかもそれらに日々改良をくわえて進歩させている。かれらの陸海軍はいずれも精鋭であり、規律も厳格をきわめる」

    わしは手許の地図と戦争の図を用いて西洋各国がインド、アフリカ、中国などを侵略している様相を示した。

    「このことから幕府の役人は西洋人が甘い餌を撒いたあと日本国を乗っ取るのだと疑心を抱いているが馬鹿げた話だ。大半の庶民が寺子屋で読み書き算盤を習うわが国と広大なインドや中国の人民とは民度がまったく異なる。西洋人が黒船や大砲で迫ろうとも容易に乗っ取られるわが国ではない」

    近藤は腕組みして耳を傾けた。

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