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松本良順(1)[連載小説「群星光芒」285]

No.4874 (2017年09月23日発行) P.64

篠田達明

登録日: 2017-09-23

最終更新日: 2017-09-19

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  • 遠くで砲撃の音がした。

    まだ昼前なのに辺りはうす暗く、時折稲妻が閃く。

    そのときわしは会津藩医の南部精一郎から負傷兵の病状報告を受けていた。

    だが、蹄の音が近づくのが聞こえたので南部を制して耳を欹てた。

    ほどなく慌ただしい物音がして頭取部屋の戸が開いた。

    現れたのは正装をした会津藩の使者と供の者だった。降りしきる雨の中を日新館の軍陣病院まで早馬で駆けつけたのだ。

    使者は挨拶もそこそこに申し立てた。

    「戦況は容易ならざる事態にございます。もはや母成峠の砦は敵の主力部隊に奪われました」

    母成峠は会津藩と二本松藩の国境に位置する前線基地である。守備していたのは会津兵と大鳥圭介のひきいる伝習隊、それに土方歳三の新選組だった。

    薩長軍は圧倒的な数にものをいわせ僅か1日で堅塁を誇る母成峠を陥落させたのだ。

    敗走した会津兵が猪苗代湖に駐留する会津藩軍事方まで戦況を知らせたのは、今朝方、つまり慶応4(1868)年8月22日の未明だった。

    土方の新選組も猪苗代城まで後退して天寧寺の宿所に戻ったという。勢いにのった薩長軍は猪苗代城に集中砲火を浴びせた。

    城兵は敵が会津盆地へ侵入するのを阻止しようと猪苗代湖の北岸で戸ノ口原の入口に架かる十六橋を切り落としにかかった。橋さえ破壊すれば敵は城下に入れない。

    残り1,604文字あります

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