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大村益次郎(11)[連載小説「群星光芒」280]

No.4869 (2017年08月19日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2017-08-18

最終更新日: 2017-08-15

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  • 新政府の兵部大輔に任命された大村益次郎は、徴兵令を布告する草案を口述して書記官に筆記させた。

    「当局は世襲し徒に坐食する士(士族)の俸禄を減じ、刀剣を脱せしめる。これにより四民はようやく自由の権を得るものなり。これ身分の上下を平均し、人権を斉一にする道にして、すなわち兵農を一致させることなり。ここに於いて士は従前の士に非らず、民は従前の民に在らずして均しく是れ皇民なり」

    書記官は益次郎の口角からほとばしる気炎に圧倒されたごとく、力をこめて草案をしたためた。

    だが、益次郎の急進的な軍制改革は大久保利通の「藩兵親兵化政策」を墨守する旧守派士族からすさまじい怒りを買った。

    その先鋒に立ったのは薩摩藩士海江田信義である。

    上野の彰義隊討伐のさい、益次郎の洋式戦法に横槍を入れた海江田は旧守派の旗頭であり、このとき顕官の非違を糾弾する京都弾正台をとりしきっていた。

    海江田ら旧守派士族は、
    「大村の軍制構想が実現すれば、従来のわれわれの地位は根こそぎ奪われる」

    と士族の特権的地位が消滅することに強い危機感を抱いた。

    「あのヤブ医者上がりが余分な口出しをしおって」

    「西洋かぶれの許しがたい奸物」

    口々にそう言い合い、改革を進める益次郎を憎悪した。

    一方、益次郎は新政府の軍事基盤を固めるため大阪に兵学校を新設し、宇治に造兵廠と火薬製造所を、そして京都南西部の八幡に火薬庫を設ける構想を抱いた。

    これらの機関を設立するには京阪の軍事施設の現状を視察する必要がある。

    ――もし薩摩や長州の不平士族が反乱を起こしたら、まず関西にて食い止めねばなるまい。

    これが関西に軍事施設を新設する益次郎の真の狙いであった。

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