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「支払い意思額」、拙速な導入は混乱を招く[お茶の水だより]

No.4868 (2017年08月12日発行) P.16

登録日: 2017-08-09

最終更新日: 2017-08-09

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▶2018年度の本格導入に向け、費用対効果評価の制度設計に関する中間取りまとめが、間もなく中医協の専門部会で行われる。現在、生存年数と生活の質の双方を考慮するQALY(質調整生存年)を基本とした当該医療技術の費用対効果について、「良い」「悪い」の判断を行う方向で検討が進んでいる。カギとなるのは、判断の基準となる国民の「支払い意思額」だ。
▶国民が健康を得るために「いくらなら支払ってもよい」という支払い意思額は、当然1人1人で異なり、アンケートで1QALYを獲得するための支払い許容額を調査する形になる。厚生労働省は、無作為抽出した3000人以上に対し、死が迫っている患者を完全に健康な状態で1年間寿命を延ばすことができる治療法についていくらまでなら公的保険で支払うべきか、という質問を想定しているが、条件設定を問題視する声が噴出している。
▶「死が迫っている患者」として国民が最もイメージしやすい疾患は末期がんだろう。ここ最近、がん治療における自由診療はますます増加している印象を受ける。“免疫療法”と銘打った治療が代表的だが、非常に高額なケースが多いにもかかわらず、実施施設は全国で数百を下らないとされる。“命のためなら金に糸目はつけない”と考える患者や家族が相当数存在する証拠ではないか。
▶英国では2万〜3万ポンドまでの場合、費用対効果が優れているとされるが、日本ではどうなるか。本来の狙いとは異なる“覚悟”のようなものが、費用対効果の総合的評価に影響してしまう恐れがある。厚労省は政府のスケジュールを踏まえ、走りながら考える方針を示しているが、本格導入には慎重な議論が求められるだろう。

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