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医療事故調査制度:開始1カ月の報告件数20件─報告対象の基準や訴訟増加の懸念で議論も

No.4778 (2015年11月21日発行) P.13

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-08

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10月にスタートした医療事故調査制度について、日本医療安全調査機構は13日、開始1カ月の報告件数は20件だったと明らかにした。

事故調の報告対象は「医療に起因、または起因すると疑われ、予期しなかった死亡・死産」。該当するかどうかの判断は医療機関の管理者が行い、報告対象と判断したら遅滞なく「医療事故調査・支援センター」を運営する日本医療安全調査機構に報告する。

20件の内訳は、病院15件、診療所5件。診療科別では消化器外科が5件と最多で、産科4件、その他が11件。地域では関東、近畿が多かった。

事故発生から報告までの期間は平均11日。最短は3日、最長は25日だった。機構はいずれも「遅滞なく」の範囲内としている。

相談件数は250件で、内容は「報告の範囲や判断」25%、「院内調査」24%、「報告の手続き」22%、「遺族からの相談」15%などだった。

同日会見した機構の木村壯介常務理事は、厚労省が2013年に対象事例を年間1300〜2000件と推計したことを紹介し、月20件について「少ない」との認識を示した。その要因として、推計時と現在の医療事故の定義が異なることや、医療機関が制度に慣れていないことを挙げ、「今後(制度が)動けば平均的な報告数が分かる。まだ制度の周知が行き渡っていないので、研修を進めたい」との考えを示した。

医療現場の受け止め方は

先月23日に開かれた日本救急医学会総会の事故調に関するシンポジウム。登壇者から「管理者によって医療事故の判断が異なることがありうる。具体的な統一基準が必要ではないか」との指摘が出た。

事故の判断が管理者に委ねられていることに戸惑うこうした意見の一方で、日本医療法人協会は現行基準を支持する立場を明確にしている。医法協が作成したガイドラインでは、「医療機関ごとに規模や性質はさまざまで、調査にかけられる人員や時間、費用に差があり、取りうる対策もそれぞれ。調査対象や調査方法は各医療機関の現状を踏まえて行うべきで、一般化・標準化は不要」と明記。本制度の業務によって診療に悪影響が及び医療崩壊に陥ることのないよう、報告対象を「膨大なマンパワーと費用をかけて行う事案に絞りこむべき」と提言している。

報告書は訴訟使用が可能

訴訟増加の懸念も聞かれる。事故調で作成される報告書は民事・刑事訴訟ともに使用制限はない。先の日本救急医学会シンポでも「(弁護士の間で)過払い訴訟の次に狙うのは医療事故という動きを感じている」という声がフロアから上がった。

長崎県の諫早医師会副会長の満岡渉氏も訴訟増加を危惧する1人だ。先月31日の日本産婦人科協会シンポジウムで講演した満岡氏は、従来の医療過誤訴訟は、遺族側弁護士に医学の専門的知識がないなどの理由で、原告勝訴率は20〜30%だが(一般民事事件の原告勝訴率は85%)、報告書入手によって勝てる事例のみ提訴でき、報告書が権威ある鑑定書になってしまうと指摘。「報告書が訴訟・紛争解決に使われると、医療安全が達成できず、当事者の人権が損なわれる」と強い危機感をあらわにした。
医療安全確保という制度創設の目的を遂行するため、医療現場の模索が続く。

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