株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

時間を超越する日野原氏の「いのち」[お茶の水だより]

No.4865 (2017年07月22日発行) P.16

登録日: 2017-07-20

最終更新日: 2017-07-20

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

▶100歳を超えてなお現役医師として精力的に講演活動を行う日野原重明氏の地方出張に、何度か密着したことがある。新幹線の中で、講演会場の控え室で、長時間会話を重ねるうちに、日野原氏の独特な時間感覚に興味を抱くようになった。
▶通常の時間感覚では、労働は自分の時間を犠牲にすることであり、休みを得ることで自分の時間を回復する。そして再び労働で時間を削っていく。これはいわば経済の時間であり、時間を犠牲にして働くからこそ賃金を得る権利があると考える。
▶しかし日野原氏の考えは全く違う。最初に時間があるのではなく、人のためにアクティブに行動することで逆に時間は創造されていく。それが「いのち」の時間である。「いのち」の時間は、献身的に働けば働くほど限りなく増大するのである。
▶103歳を迎える前に日野原氏が書き下ろした医学・医療論『だから医学は面白い』(小社刊)の中に、「いのち」がついには時間を超越し、永遠となる瞬間について語った箇所がある。それは、終末期のケアで医療者がシシリー・ソンダースの言う「Being with the patient」を実践する時に訪れるという。「(その時)医療者は時間を超越して、死にゆく患者と共にある。時間を超越して共にあること─これが最高のケアのアートである」
▶日野原氏は医療者に対し「経済の時間を生きるな、いのちの時間を生きよ。患者と共にあることで時間を超越せよ」と、あの穏やかな笑顔で呼びかけていたのではないか。日野原氏のメッセージは、「いのちの授業」や「新老人の会」を通じて10代の子どもや高齢者の生き方をも変容させる力を持っていた。日野原氏の「いのち」への問いをしっかり受け継ぎ、これからも反芻していきたい。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top