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(3)認知症と紛らわしい疾患の見きわめ② ─せん妄と認知症[特集:認知症の問診と病歴の取り方]

No.4862 (2017年07月01日発行) P.41

野村俊明 (日本医科大学医療心理学教授)

登録日: 2017-06-30

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  • 認知症とせん妄は相互のリスクファクターである

    認知症とせん妄は鑑別が難しい場合がある。また,両者が並存する場合もある

    急性・亜急性に発症した浮動性の軽度意識障害,活動性亢進あるいは低下は,まずせん妄を疑って身体的検索を行う

    1. せん妄とは

    せん妄は身体疾患によって惹起された軽度の意識障害のひとつで,注意障害,思考障害,幻覚,睡眠覚醒リズムの障害などがみられる病態である。せん妄は比較的急性に発症し,症状は浮動性で日内変動を示すとされるが,症状が必ずしも一過性と言えず長期にわたりうることにも関心が集まっている。

    総合病院精神医学会によれば,65歳以上の入院患者の10~42%,術後患者の17~61%にせん妄が認められるとされているが,医療現場では,せん妄は適切に診断・治療されているとは言えず,医療従事者は20~50%程度しか症状を認識していないという意見もある1)

    本特集のテーマである認知症との関係については,認知症はせん妄のリスクファクターであり,同時にせん妄は認知機能低下のリスクファクターであるとされている。せん妄は,一般に過活動型せん妄,低活動型せん妄,混合型の3つのサブタイプに分類されるが2),認知症との関係で言えば低活動型せん妄との鑑別が難しいことがある。

    以下,症例を紹介しながら解説を加える。

    2. 症例

    1 症例1:せん妄をBPSDの悪化と誤診した症例

    76歳,男性。子どもたちは自立して家を出ており,75歳の妻と二人暮らしだった。血糖値と尿酸値が高く,服薬していた。3年ほど前から物忘れが目立ちはじめ,生活の自立度も低下してきたのでかかりつけ医を受診した。問診と画像診断を受けアルツハイマー型認知症と診断された。ドネペジル10mgの処方を受けていたが,夜間の徘徊などが時折出現していた。ある晩,風邪をひき寝込んでいたが,急に大きな声を出し,布団から起き出して家の外に出ようとしたため家族と揉み合いになった。その晩は妻がなんとかなだめて,翌日かかりつけ医を受診した。認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)の悪化と診断され,メマンチンと抑肝散の処方が開始された。

    帰宅後,いったんは穏やかになったように見えたが,夜になると再び活動的になり,興奮して大きな声を出し外に出て行こうとした。翌日,再びかかりつけ医を受診し,紹介で精神科に入院となった。入院後に行われた身体診察でかなりの便秘を認め,イレウスに近い状態だった。処置を行ったところ大量の排便を得た。入院当日は看護師がつきっきりで点滴を行わざるをえなかったが,3日後には経口投与での治療が可能になった。日中できるだけベッドから離してラウンジで過ごすように働きかけ,就寝前にクエチアピンを投与し,37.5mgまで漸増した。退院直前に施行したミニメンタルステート検査(mini mental state examination:MMSE)は22/30点であり,認知機能の改善もみられた。

    認知症の患者が,感染と強度の便秘を契機に過活動型せん妄を発症したものと思われる。それが認知症のBPSDの悪化として評価され,せん妄のいっそうの悪化を見た症例である。治療後,排便コントロールに注意して経過観察を行ったところ夜間徘徊がまったくみられなくなったことから,認知症発症後に時折みられた徘徊は,せん妄によるものであった可能性が高いと思われた。

    過活動型せん妄は,運動活動性の量的増加,活動性の制御喪失,不穏,徘徊などによって特徴づけられる。必ずしも意識障害が重視されていないことに留意すべきである。BPSDとの鑑別が難しい場合もありうるが,急激な悪化を見た場合は,まずはせん妄を疑って治療を行うべきである。

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