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(2)スポーツによる頭部外傷の診断と治療[特集:スポーツによる頭部外傷の最前線]

No.4859 (2017年06月10日発行) P.31

前田 剛 (日本大学医学部脳神経外科学講座准教授/青森大学脳と健康科学研究センター)

吉野篤緒 (日本大学医学部脳神経外科学講座主任教授)

登録日: 2017-06-09

最終更新日: 2021-01-06

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  • スポーツ頭部外傷の代表的な疾患は,脳振盪と急性硬膜下血腫である

    スポーツによる脳振盪は,意識障害や健忘がなく,頭痛や気分不良などの症状がみられることが多い

    脳振盪の評価には,国際スポーツ脳振盪会議が提唱する「SCAT3」を用いる

    脳振盪の症状が消失しても,受傷同日の競技復帰は禁止とし,脳神経外科を受診させる

    急性硬膜下血腫を否定するために,CTやMRIなどの画像診断を行う

    急性期の症状が消失するまで,肉体的・精神的な休息を十分にとらせる

    脳振盪の症状は,数週間以上継続することもある

    脳振盪の症状が完全に消失するまでは,競技や練習への復帰はできない

    1. スポーツによる頭部外傷を取り巻く現状

    近年,スポーツによる頭部外傷が注目されており,予防を中心に様々な研究が発表されている。スポーツ頭部外傷の代表的な疾患は脳振盪と急性硬膜下血腫であり,どちらも頭部へ回転加速度が加わることにより発生する。
    スポーツにおける脳振盪の特徴は,繰り返し発生しやすいこと,軽症であるがゆえに診断や重症度の評価,競技復帰時期の判断が難しいことである。脳振盪を繰り返すと,慢性外傷性脳症をはじめとする脳振盪続発症が引き起こされ,また尚早な復帰は,再度の受傷による重篤な頭部外傷の発生につながる。急性硬膜下血腫は架橋静脈の破綻によることが多く,脳挫傷を伴わないことが多い。脳振盪では急性硬膜下血腫が合併することもあり,脳振盪の頻度が高いスポーツでは,急性硬膜下血腫をきたす危険性も高くなる。
    本稿では,スポーツ頭部外傷の診断と知っておくべき対応や治療について解説する。

    2. スポーツによる脳振盪の特徴

    脳振盪は頭部に外力が伝わることにより起こる,意識障害や記銘力障害を中心とした一過性の脳機能障害である。一度の脳振盪による神経症状は可逆性であり,受傷前の状態まで完全に回復する。この可逆性の神経障害のメカニズムはいまだ詳細にされていないが,実験的には神経細胞内外のイオン平衡の破綻により,正常な神経伝達が行われなくなることが確かめられている。脳振盪というと「一時的に意識がなくなる」という印象が強いが,意識障害の程度は様々で,中には意識障害を認めない脳振盪も存在する。このような意識障害を認めない脳振盪は,軽症脳振盪(mild concussion,subconcussion)と言われる。しかし,意識障害を認めない場合でも,意識内容の変化として記憶力障害,失見当識,反応時間の遅延,興奮・感情鈍麻などの精神認知機能障害など,多彩な症状を示す。2012年にチューリッヒで行われた第4回国際スポーツ脳振盪会議は,表1 1)~3)に示す項目をスポーツによる脳振盪の特徴として報告した。また,表2 1)~3)に示す症状は,脳振盪を示唆する可能性があると解説している。この中の症状では,頭痛が最も多く認められる症状であるが,競技者の安全と健康を守るためには,たとえ軽症の場合であっても表2の症状が1つ以上認められたときは,脳振盪として対応する。

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