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(2)腎硬化症の薬物治療 ─糖尿病合併例,有蛋白尿例を含む[特集:腎硬化症への対策]

No.4854 (2017年05月06日発行) P.34

岡田浩一 (埼玉医科大学医学部腎臓内科教授)

登録日: 2017-05-05

最終更新日: 2017-04-28

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  • 腎硬化症による慢性腎臓病(CKD)患者においては,その進展抑制をめざして140/90mmHg未満への降圧療法を行う。有蛋白尿例や心血管疾患(CVD)ハイリスク群においてはさらに低いレベルへの強化降圧を考慮するが,過剰降圧により腎機能低下が進行性に認められる場合には,降圧目標を上方修正する

    蛋白尿を伴わない場合はCa拮抗薬を,有蛋白尿例ではレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬を選択するが,後者において併存する虚血性要素の程度によっては腎機能が悪化する危険性があり,治療開始や増量は慎重に行う

    糖尿病合併例でも蛋白尿を伴わない場合はCa拮抗薬を選択し,CVDハイリスク群として強化降圧を考慮するが,過剰降圧により腎機能低下が進行性に認められる場合には,降圧目標を上方修正する

    75歳以上の高齢者の腎硬化症では,成人例に比べて虚血性要素が病態に占める割合はさらに大きいことが推定され,Ca拮抗薬を用いて収縮期血圧150mmHg未満をめざして緩徐に降圧する

    1. 降圧療法による(良性)腎硬化症の進展抑制

    1 腎硬化症の疾患概念

    腎硬化症という疾患については,腎細小動脈硬化症という形態学的特徴は認知されているものの,検尿所見が軽微であり腎生検の適応となる機会も少なく,ほとんどの場合は除外診断によって診断が下されている1)。発症メカニズムは前駆する高血圧による腎実質障害とされているが,高血圧を伴わない症例もしくは高血圧に前駆して発症する症例などの非典型例も散見される。さらに,粥状動脈硬化症をベースとした虚血性腎症(腎動脈狭窄症,コレステロール塞栓症を含む)や加齢性変化との境界もあいまいであることから,疾患概念の見直しの必要性が指摘されている。

    現状では,画像診断で特異的な所見を欠き,さらに腎生検が行われずに腎硬化症と診断された慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者は,典型的な腎硬化症を主体とするものの,検尿所見が軽微である様々な腎臓病のヘテロな集団である。

    以上の腎硬化症の診断に関わる現状については,本特集①に詳しく述べられているのでご参照頂きたい。

    2 腎硬化症の治療方針

    この単一疾患とは言えない腎硬化症という診断名が下されたCKD患者に対して,その進展を抑制する治療として何が推奨されるだろうか。CKDの治療方針としては,原疾患に特異的な治療と原疾患を問わない一般療法とが挙げられる。後者はいわゆる進展リスク管理であり,その代表が降圧療法である。確かにMDRD試験2)では,蛋白尿を伴う(よって腎硬化症は否定的な)CKD患者においては,130/80mmHg未満への強化降圧によって進展が抑制されている。一方,蛋白尿を伴わない(よって臨床的に腎硬化症や多発性嚢胞腎が中心となる)CKD患者ではその効果が消失することから(図1)3),腎硬化症によるCKD患者においては,強化降圧療法の優位性は低く,140/90mmHg未満より低いレベルへの降圧を推奨するに足るエビデンスは少ない。


    さらに2011年までの11個のRCTを検討したメタ解析では,強化降圧療法はCKD患者のクレアチニン倍加や末期腎不全への到達を抑制することが示されたが,この有効性は蛋白尿を伴わないCKD患者では認められなかった4)。この結果は,腎硬化症によるCKDを伴うアフリカ系米国人を対象としたAASK試験においても確認され5),さらに腎硬化症と診断された患者群においても,蛋白尿が陽性ならば強化降圧による進展抑制が期待されることが示された6)。ただし,アフリカ系米国人における腎硬化症では,MYH9/APOL1といった遺伝子の変異が高血圧性腎障害へのsusceptibilityを高めてその発症に関与することが報告されており7),これらの結果をそのまま日本人の腎硬化症患者に適用できるかは明らかではない。

    高血圧患者の腎機能予後という観点からは,収縮期血圧130mmHg以上という正常高値のレベルから,高血圧は腎機能障害のリスク因子であり,腎細小動脈硬化の出現頻度と相関することが示されている8)9)。一方,少なくとも白人やアジア人においては本態性高血圧のみで末期腎不全に到達するという仮説は実証されておらず,また降圧療法による介入効果を見ても,2000年までの10個のRCTを対象としたメタ解析では,降圧治療群と対照群における腎機能予後に有意差は認められなかった10)。さらに2015年までの降圧療法による心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)発症抑制効果を検討したRCTを対象とした2つのメタ解析では,末期腎不全への到達抑制に関して強化降圧療法の有効性は認められなかった11)12)

    近年の糖尿病を伴わないハイリスク群を対象とした大規模臨床研究であるSPRINT試験においても,利尿薬を中心とした120/80mmHg未満への強化降圧療法群と140/90mmHg未満への緩徐降圧療法群で腎機能予後に有意差はなかった13)。ただし,いずれの検討においても,CKD患者におけるCVD発症抑制については強化降圧療法の有効性が示されており,その意義を否定するものではない。

    以上を勘案すると,腎硬化症と診断されるCKD患者においては,まずはその進展抑制をめざして140/90mmHg未満への降圧療法を行う。また,蛋白尿が陽性となる糸球体高血圧の関与の大きな症例やCVDハイリスク群においては,さらに低いレベルへの強化降圧を考慮するが,適正範囲への降圧でも腎機能低下が進行性に認められる場合には,降圧目標を上方修正すべきである。

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