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(19)アルコール─飲酒に寛容な背景 文化的背景,または誤った知識のために,飲酒に寛容となっている[特集:困った患者の生活習慣指導]

No.4722 (2014年10月25日発行) P.106

編集: 津下一代 (あいち健康の森健康科学総合センター センター長)

真栄里 仁 (国立病院機構久里浜医療センター精神科/教育情報部長)

樋口 進 (国立病院機構久里浜医療センター院長)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-20

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  • 病歴(検査データは異常値のみ)
    32歳,男性。市役所職員。
    大学卒業後,地元の市役所に就職した頃(22歳)より,酒どころという地域性や,職場も「酒が飲めない奴に仕事はできない」という雰囲気であり,連日,仕事帰りに先輩や同僚と飲みに行くようになった。30歳で過重労働の影響でうつ病を発症し,メンタルクリニック通院と薬物療法を開始したものの,精神疾患に対していまだ偏見の強い土地柄でもあり,病気や通院のことは周囲には明かしていない。治療開始後も抑うつは遷延化し,意欲・活動性も発病前より低下しており,2~3カ月に1回欠勤することもある。飲みすぎた後などに二日酔いで出勤することもあるが,他にも二日酔いの同僚も多く,特に注意されることはない。最近では,休みの日も自らビールロング缶(500mL)3缶を飲むようになってきた。
    飲酒について今まで医師に話したことはなかったが,たまたま行われたクリニックの血液検査で,AST 72IU/L,ALT 30IU/L,γ-GTP 120IU/L,TG 215mg/dLとなり,アルコール性肝障害と高中性脂肪血症の所見がみられ,大量飲酒が発覚した。
    家族歴:父親も大酒家だが,飲酒問題なし。

    1. 医師はどのような点に困っているのか?

    問題点
    ▶うつ病の治療開始後2年経っているが,症状が持続している
    ▶大量飲酒により,肝障害など身体面での問題も出現している

    大量飲酒をしていることがわかった後,薬とお酒の併用はすべきでないと指摘したところ,「仕事の付き合いにはアフターファイブの付き合いは欠かせない」「薬を飲み続けても病気は良くならないが,お酒を飲めば気持ちも軽くなる」「うつ病で病院に行っているから酒が飲めないとは,今さら周りに言えない」と反論された。

    2. 困難となる患者の状況をどう整理するのか?

    (1)うつの遷延化

    2年間通院し,薬物療法を行っているにもかかわらず,抑うつが遷延化し,仕事のパフォーマンスも低下している。

    (2)飲酒とうつに与える影響に対する誤解

    「お酒を飲めば気持ちも軽くなる」と述べるなど,飲酒はうつの治療に役立つと誤解している可能性がある。

    (3)周囲の精神疾患に対する偏見

    以前に比べると精神科疾患に対する理解はかなり進んではいるものの,いまだに「うつ病=怠け者,心の弱い人」などの偏見は強く残っており,受診のハードルとなったり,周囲の理解・協力が得られなかったりなど,治療上の妨げとなっている。

    (4)飲酒に寛容な文化

    冠婚葬祭などでの飲酒のように,飲酒は個人の嗜癖であると同時に,社会的要因にも大きく影響されている。成人1人当たりの酒類販売(消費)数量(平成24年度)は,都道府県によって61.3~109.8Lと差があり,飲酒文化が地域により大きく異なっていることを示している。本例のように,飲酒問題にも寛容で,二日酔いで出勤しても特に問題視されないような地域や職場もいまだに多く残っている。

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