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高齢者の生きがいと総合的な医療[プラタナス]

No.4852 (2017年04月22日発行) P.1

安藤哲朗 (安城更生病院副院長/神経内科部長)

登録日: 2017-04-21

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  • 20年近く前、総合病院の神経内科医であった私は、90歳を超えた脳梗塞の男性患者を受け持った。幸いほとんど後遺症なく退院となった。患者と家族から信頼されたのだろう。患者はその後に肺炎や胃腸炎など様々な病気になり入退院を繰り返したが、どのような病状であっても私が主治医を頼まれた。その後数年間、総合病院の中にあって、かかりつけ医の役割となり、病状に応じてその領域の専門医に相談し、一緒に診療した。

    患者は有名な画家だった。肺炎で体力が衰弱したときに、病室に画材を持ち込んで絵を描きだすと、途端に気力と食欲が戻って回復した。転倒により利き手の右手を骨折したときには、左手で絵を描く練習をして、右手と画風が違うことを喜んだ。「長生きするのが目標じゃないんだな。絵を描くのが目的で、そのために長生きしてるの」と彼は言った。こんなに純粋に生きる目的を認識する人がいることに驚き、また現実に絵を描くことで体力が回復することに感銘を受けた。

    私は多くのことを考えさせられた。高齢者のQOLとは?生きがいとは何だろうか?そのために生きたいと心の底から思うことを持っている人は、どれくらいいるだろうか?自分はどうだろうか?

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