株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(1)成人の発達障害の理解とサポート─ASDとADHDの鑑別[特集:成人期の発達障害への取り組み]

No.4852 (2017年04月22日発行) P.26

太田晴久 (昭和大学附属烏山病院/昭和大学発達障害医療研究所講師)

登録日: 2017-04-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • 代表的な発達障害として,注意欠如多動性障害(ADHD)と自閉症スペクトラム(ASD)がある

    知的障害を伴わない場合,成人になるまで発達障害の存在に気づかれないことが多い

    ASDとADHDの鑑別は,詳細な症状評価をもとに行わなければならず,双方の症状が同一患者に併存していることも多い

    発達障害の診断が単なるレッテル貼りになることは避けるべきである

    1. 成人期の発達障害の概要

    発達障害とは幼少期より発達の遅れが生じるものを指しており,精神科領域では広汎性発達障害(pervasive developmental disorder:PDD),注意欠如多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)が代表的なものである。PDDには,以前より広く知られている自閉症や,最近マスコミなどに取り上げられたことで一般に知られるようになったアスペルガー症候群,特定不能のPDDなどがサブカテゴリーとして含まれている。近年では,それらのサブカテゴリーわけに本質的な意味はないと考えられており,対人コミュニケーション障害やこだわりを主症状とする1つの連続体として,自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder:ASD)と総称されるようになってきている。

    これまで発達障害は主に児童精神科領域で取り扱われていたが,知的障害を伴わない場合には成人になるまで障害に気づかれず,大学進学や就労上の不適応を機に初めて医療機関を受診し,診断に至ることが多い。その代表格がアスペルガー症候群である。アスペルガー症候群は,対人コミュニケーションの問題やこだわりといった自閉症に類する特徴はあるものの,知的障害や言葉の遅れがないことから,子どもの頃はその障害が見逃されがちである。アスペルガー症候群の認知度の高まりとともに,成人を対象とする精神科においても発達障害を診療することが求められるようになってきている。しかし,それはここ10年ほどのことであり,成人の発達障害を診療している医師や施設の数は限られているのが現状である。

    そのため,我々が2008年に昭和大学附属烏山病院に成人発達障害専門外来とデイケアを開設して以来,全国から多くの受診希望が寄せられており,現在も同様の状況が継続している。成人発達障害専門外来を開設してから2012年までの約5年間の集計では,受診者の年齢は20〜30歳代前半が中心であり,そのほとんどに知的障害が認められず,むしろ高学歴なのが特徴的であった。近年の烏山病院での明確なデータはまだ集計していないが,ADHDの患者が急増している印象がある。

    それは,この数年間で成人のADHDに対して2つの薬剤(アトモキセチン,メチルフェニデート)が認可されたことと無縁ではないだろう。製薬会社による啓発活動などにより,当事者や精神科医の間でADHDに対する認識が広がり,薬物による治療的関与が期待され受診者数が増えているものと推察される。ADHDは不注意,多動・衝動性を主症状とするが,成人期に受診するADHDの大部分は不注意症状が優勢である。多動・衝動性が優勢である場合には発達の早期から問題視され受診に結びつきやすいのに対して,不注意症状は養育者や教師,他児童などに負担をかけることが比較的少ないため,小児期には単なる個人の特性として認識されやすい。また,多動・衝動性は成長に伴い軽減してくるのが通常であるが,不注意症状は残存しやすいと考えられており,成人となり自身の苦悩を表出することができるようになると,進学や就労などの複雑な事象を扱う中で不注意症状の問題が表面化しやすい。それらのことが,成人期になり初めて受診するADHDの多くが不注意症状優勢である原因として考えられる。

    残り4,232文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top