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法医学教室におけるDNA鑑定の現状【難しいDNA鑑定事例を研究できる環境が必要】

No.4839 (2017年01月21日発行) P.55

水口 清 (東海大学基盤診療学系法医学客員教授)

登録日: 2017-01-19

最終更新日: 2017-01-17

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現在,刑事事件に関わる試料のDNA鑑定は,すべて警察の科学捜査研究所において行われている。それでは,法医学教室におけるDNA鑑定や検査とはどのような関係になっているのか? 答えは,個々の研究室によって違うが,原則的には警察で扱わない鑑定が法医学教室に依頼される。

警察のDNA鑑定では,常染色体マイクロサテライト(STR)多型とY-STR多型が利用され,型判定には一定の基準値に達したピークを採用する原則が定められている。しかし,この基準は国や学会により異なる。実際には,基準値を変えれば判断も変わることになり,裁判上では問題になりうるため,その際は法医学教室に持ち込まれる。

さらに,警察の一般的検査には含まれないミトコンドリアDNA多型,X染色体多型,等々も法医学教室で鑑定することがある。具体例で言えば,変性試料,混合試料,微量試料など,鑑定や判断が容易でない場合になる。このような試料に関する検査は,人工的に作製した実験試料では再現しきれない部分が多々あり1),法医学的DNA検査が始まった当初から,難しい研究分野とされている。

これらの問題点を解決しにくくさせている原因として,現状の検査システムに由来するいくつかの背景が挙げられる。たとえば,貴重な情報を含む実際例を容易には公表できないこと,大学の研究者にとって事例を経験する機会が少ない環境,などである。今後,大学への一部検査の委託や実際例の研究・検査結果の公開方法の検討などが必要と考えられる。

【文献】

1) Hansson O, et al:Int J Legal Med. 2016. Nov.3. [Epub ahead of print]

【解説】

水口 清 東海大学基盤診療学系法医学客員教授

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