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ワルファリンとNOACの比較試験における「ワルファリン群のPOCデバイスによるPT-INR計測」のインパクト [J-CLEAR通信(71)]

No.4836 (2016年12月31日発行) P.34

後藤信一  (慶應義塾大学医学部循環器内科)

後藤信哉 (東海大学医学部内科学系循環器内科学教授/J-CLEAR副理事長)

登録日: 2016-12-30

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  • ワルファリンとPT-INR

    ワルファリンは強力な抗凝固薬である。モニタリングにはPT-INRを利用するが,実臨床におけるPT-INRの計測値にはばらつきが大きい。PTは,カルシウムをキレートして抗凝固した血液に,カルシウムと組織因子製剤(トロンボプラスチン)を添加したときの凝固時間である。「凝固」はカスケード反応であるため,肉眼的な凝固開始と凝固終了の時間差は少ない。しかし,凝固時間の終点は,凝固による血液粘度上昇時,血液固化時,フィブリン産生時,トロンビン産生時などと任意である。

    そこで,標準化をめざして,標準血漿の凝固時間と患者血漿の凝固時間の比(PT比:患者血漿の凝固時間/標準血漿の凝固時間)を計測したが,こちらもばらつきの大きな検査であると報告された1)。このばらつきの原因を,組織因子製剤の差による検査感度や特異度の差にあるとしたことから,これらを調節するために国際感度指数(international sensitivity index:ISI)を決め,PT比にISIを乗じることでPT-INRを算出し,標準化した。機械弁の症例により,PT比よりもPT-INRのほうが臨床イベントと相関することが報告されている2)

    しかしPT-INRでは,同一検体を複数回計測したときの±15%の計測値の誤差は,臨床検査として妥当な範囲とされている3)。すなわち,PT-INRが2の検体ならば,計測値が1.7~2.3と出る計測装置は容認される。ばらつきの一部は,施設が用いている組織因子製剤のISIや計測装置に依存している。複数の医療機関に非常勤で勤務することの多い臨床医は,各種の施設で用いている,ISIの異なる製剤・計測装置の特徴を感覚的に理解して,比較的雑駁にワルファリンのコントロールを行っているだろう。

    診療ガイドラインでは,標的PT-INRを2~3,1.6~2.6などと国ごとに定めている。しかし,「標的」と「実測」の間には解離があるため,計測値の±15%の誤差を考慮すれば,臨床医がPT-INRを2~3に調節しても,実際の計測値は1.7~3.45とばらつくはずである。PT-INRは,計測時間の65%程度が標的範囲内にあればよいという程度の指標であり,完全な標準化を求める検査ではない。また,グレーゾーンを個別最適化する能力がないコンピューターなどを用いて,PT-INRが厳密に2~3に入る診療を行ったほうが,多少のばらつきを容認した場合よりも,個人のアウトカムがよいことを示す臨床的エビデンスもない。

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