多発性内分泌腫瘍症2型は,RET遺伝子が腫瘍発生の原因遺伝子と同定されている常染色体優性遺伝疾患である。遺伝子変異にはホットスポットがあり,また変異部位と病型に関連が認められることから,遺伝子診断が当該症例の予後予測や治療選択のひとつの指標となる。
多発性内分泌腫瘍症2型における褐色細胞腫の浸透率(発症リスク)は50%であるが,遺伝子変異部位別の発症リスクの詳しいデータはなかった。2009年に発行された米国のガイドライン(文献1)でRare,Minority,Majorityという変異別リスク分類が示されたが,具体的に何%という数字はなかった。15年に改訂された米国ガイドライン(文献2)にはわが国からのデータも引用され(文献3),褐色細胞腫発症リスクが変異部位別に示された。コドン634変異例では褐色細胞腫発症率が30歳で25%,50歳で52%,77歳で88%であった。一方,コドン609,611,618,620の変異では生涯発症リスクは20%以下で,50歳を過ぎてからの発症はほとんどなかった。
わが国のデータは,08年から始まったMENコンソーシアムグループによる全国調査の集計結果で,この集計作業と並行して編纂された日本語のガイドブックが発行されている(文献4)。
1) Kloos RT, et al:Thyroid. 2009;19(6):565-612.
2) Wells SA Jr, et al:Thyroid. 2015;25(6):567-610.
3) Imai T, et al:Eur J Endocrinol. 2013;168(5):683-7.
4) 多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック編集委員会, 編:多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック. 金原出版, 2013.