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睡眠とglymphatic system 【脳からの老廃物などの排出は睡眠中に増加する】

No.4805 (2016年05月28日発行) P.56

髙添一典 (航空医学研究センター検査・証明部長)

登録日: 2016-05-28

最終更新日: 2018-11-27

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2015年5月,米国航空宇宙医学会の「航空機乗組員の疲労」と題されたワークショップに参加した。演者の1人Dr. John Caldwellから,「脳脊髄液(CSF)は睡眠中に脳から老廃物,有害物質を除去している」とのコメントがあり,それに関連した文献を紹介する。
代謝が活発であるにもかかわらず,脳には組織学的に同定されるリンパ管が存在せず,生じた有害物質などのCSFからの排泄機序は明らかでなかった。近年,マウスの実験からCSFはまずグリア細胞に取り囲まれた動脈周囲の間隙に流入し,その後,間質さらに静脈周囲腔を経てリンパ管に入り,最終的に大循環に戻ることが示された(文献1)。この排出経路はlymphatic system(リンパ系)とglial cell(グリア細胞)とを組み合わせて,glymphatic systemと命名され(文献1),マウスにおいてCSFは睡眠時や麻酔下のほうが覚醒時より多く,グリア細胞に囲まれた動脈周囲腔へと流れ込むことも報告された(文献2)。また,βアミロイドを皮質内に投与すると,睡眠時には覚醒時と比較してCSFから2倍の速度で除去された(文献2)。
睡眠は生命の維持に重要な生理現象であり,動物実験ではあるが,脳からの不要な代謝産物などの排出が睡眠中に増加する,という点が興味深い。国際線パイロットは,各人の工夫で睡眠時間を確保する努力をしているが,さらに良眠が得られるよう研究を進めることが必要であろう。

【文献】


1) Nedergaard M:Science. 2013;340(6140):1529-30.
2) Xie L, et al:Science. 2013;342(6156):373-7.

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