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B型肝炎ウイルスの再活性化 ─ 根絶されない医原病 [内科懇話会]

No.4827 (2016年10月29日発行) P.39

司会: 井廻道夫 (新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所所長)

演者: 持田 智 (埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科教授)

登録日: 2016-10-26

最終更新日: 2016-10-26

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  • 【司会】 井廻道夫(新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所所長)

    【演者】 持田 智(埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科教授)

    B型肝炎ウイルスが肝細胞内で複製する際には,構造の安定したcccDNAが形成され,一過性感染で臨床的に治癒した場合でもこれが残存し,遺伝子レベルではキャリアと変わりない

    B型肝炎の非活動性キャリアないし既往感染例で免疫抑制・化学療法を実施すると,血清HBV-DNA量が上昇し(ウイルス再活性化),de novo B型肝炎を発症する場合がある

    免疫抑制・化学療法を実施する場合には,HBs抗原陰性例ではHBc抗体とHBs抗体を測定し,いずれかが陽性のB型既往感染例では,血清HBV-DNA量のモニタリングを実施する

    重症のde novo B型肝炎の発症を予防するためには,モニタリング中に血清HBV-DNA量が20IU/mL(2.1log copies/mL)以上に上昇した時点で,核酸アナログ製剤による治療を開始する必要がある

    B型肝炎は核酸アナログとインターフェロン製剤を併用することで,大部分の症例で肝炎を鎮静化して,肝疾患の進展を予防できるようになっています。しかし,分子標的薬,生物学的製剤など免疫抑制・化学療法の進歩で,ウイルスの再活性化で重症肝炎を発症する場合がみられるようになりました。このことは急性肝不全の領域でも大きな問題になっています。わが国における現状と,その対策法を紹介いたします。

    B型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化

    私たちが2006年に初めて経験した,HBV再活性化によって急性肝不全を発症した悪性リンパ腫の78歳男性の症例を提示します。HBs抗原が陰性で,抗CD20であるリツキシマブを用いた標準的なR-CHOP療法が行われました。治療中は軽度の肝障害がみられましたが,薬物性肝障害とみなされていました。しかし,R-CHOPを8クール終了した後に血清ALT値が著増して黄疸を発症し,プロトロンビン時間(%)が低値であることから,急性肝不全非昏睡型と診断されました。この時点ではHBs抗原が陽性化し,血清HBV-DNA量が高値になっています。HBV感染が肝障害の原因と考え,核酸アナログであるエンテカビルとインターフェロンを投与し,副腎皮質ステロイドのパルス投与を行いましたが,肝性脳症が出現して急性肝不全昏睡型(亜急性型)に移行しました。

    当時はこのような症例を劇症肝炎と呼んでいましたが,血漿交換と血液濾過透析を組み合わせた人工肝補助を実施した結果,肝予備能は改善せず,不幸な転帰をたどりました。

    以前は,このような症例は化学療法中の輸血が原因でHBVに感染したと考えられてきました。本症例では治療前のHBc抗体,HBs抗体が不明ですが,わが国の50歳以上の年齢層のうち,約25%はいずれかが陽性のHBV既往感染例であると考えられています。78歳と高齢で,肝炎発症後のHBc抗体価が高力価であることを考慮すると,この患者はHBV既往感染例であり,R-CHOP療法が誘因でde novo B型肝炎を発症したと考えられます。免疫抑制・化学療法によるHBV再活性化は,まさに「盗人を捕えてみれば我が子なり」といった病態と言えます。

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