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室温で放置したカレーに増殖する菌は再加熱しても有害?

No.4803 (2016年05月14日発行) P.58

藤澤倫彦 (日本獣医生命科学大学応用生命科学部食品衛生学教室教授)

登録日: 2016-05-14

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

自宅でつくったカレーは,当日より翌日のほうがおいしいと多くの人が言っています。ただし,翌日のカレーは菌が繁殖して危険ともされていますが,どのように危険なのでしょうか。電子レンジおよびコンロで再加熱をしても同様に危険なのでしょうか。 (埼玉県 I)

【A】

カレーは肉類や野菜などの食材を含み,各食材は様々な細菌に汚染されています。中でも問題となるのが食中毒を起こす細菌です。食中毒を起こす細菌の多くは加熱により死滅するので,一般的に細菌性食中毒の予防に加熱は有効な手段ですが,芽胞という熱や乾燥などに抵抗性を示す耐久細胞を形成する細菌は加熱に耐えます。
カレーによる食中毒で事例の多い原因菌としてウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が挙げられますが,本菌は芽胞を形成します。ウェルシュ菌はヒトや動物の腸管内,土壌,下水,河川などの自然界に広く分布していますが,このうち,エンテロトキシン(腸管毒)を産生する一部のウェルシュ菌が食中毒の原因菌となります。多くのエンテロトキシン産生性ウェルシュ菌の芽胞は100℃1~6時間の加熱に耐えると考えられているので,通常の加熱調理では食品中のウェルシュ菌の耐熱性芽胞を死滅させることは不可能と思われます。調理したカレーをすぐに喫食せず室温など,適温に長時間放置することで加熱調理の過程で生き残ったエンテロトキシン産生性ウェルシュ菌の芽胞が発芽し,大量に増殖します。
ウェルシュ菌食中毒は,食品中で大量に増殖したエンテロトキシン産生性ウェルシュ菌が食品とともに摂取され,腸管内で芽胞を形成する際に産生されるエンテロトキシンにより引き起こされます。調理後,室温に放置したカレーを翌日喫食してウェルシュ菌食中毒が発生した事例が実際に報告されています。
ウェルシュ菌食中毒の発症には多くの菌量(108個以上)の摂取が必要とされているので,カレーによるウェルシュ菌食中毒予防には食品中のウェルシュ菌を増殖させない温度管理が重要となります。調理後速やかに喫食することが望ましいのですが,保存する場合は調理後速やかに小わけし,10℃以下で保存するなどで増殖を防ぐことが可能です。また,カレー中の菌数を減少させる目的で喫食前に中心部が75℃以上となるよう十分に再加熱を行うことは,芽胞には無効ですが芽胞から発芽した栄養細胞(芽胞になっていない状態の発芽細菌)の殺菌には有効と思われます。

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