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イヌの特徴と遺伝子変異の関係は?

No.4796 (2016年03月26日発行) P.58

近江俊徳 (日本獣医生命科学大学獣医学部 獣医保健看護学基礎部門教授)

登録日: 2016-03-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

イヌの生態や行動様式,性格が多種多様であることには,遺伝子の変異が関係しているという報告がありましたが,その詳細を教えて下さい。そのほか,野生から遺伝子変異して伴侶動物となった過程も併せて。 (兵庫県 K)

【A】

イヌは,体の大きさ,耳の形,被毛の色や質,鼻面の長さ,吠え方,そして気質(性格)など特徴が多様化していますが,これは約1万5000年前にオオカミから家畜化された際のイヌの祖先種の遺伝子構成,ならびにここ約200年の間に行われた品種改良(人為的な交配)によるもので,品種としては約400種類以上が存在します(文献1,2)。
近年,イヌの遺伝子解析が進み,気質についてはSLC1A2(溶質輸送体ファミリー1メンバー2)やCOMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ)などのSNP(single nucleotide polymorphism:一塩基多型,DNAの塩基配列の中で1つ塩基が異なり,その頻度が1%以上と,比較的よく認められる変異)が攻撃性や活動性など,気質の程度と関係することがわかっています(文献3,4)。SLC1A2とCOMTは,脳内の神経伝達に関連していることから,遺伝子型の違いにより物質の働きに差が生じていると考えられています。
また,イヌのinsulin-like growth factor-1(IGF-
1)の変異と気質との関連はあまりよくわかっていませんが,IGF-1遺伝子の変異はイヌの大きさに関係しています(文献5)。この研究については,米国国立衛生研究所らのグループが143犬種3241個体の遺伝子解析を行い,最終的にIGF-1遺伝子のSNP5の遺伝子型がAA型のイヌはすべて小さく(9kg以下),一方Aを持たないイヌ(GG型)は大きい(30kg以上)ことから,遺伝子変異(GからA)がイヌの体形が大きくなるのを抑制していると考えられています。
さらに,興味深いことに,野生動物であるハイイロオオカミ394例のSNP5はすべてGG型である一方で,特定の小型犬ではなく様々な小型犬の品種がAA型を持っていることから,おそらくこの200年の品種改良の中で起きた変異というよりも,オオカミからイヌが家畜化された初期の時期に遺伝子変異が生まれたという仮説があります。今後,さらに伴侶動物の遺伝子解析が進み,その特徴や特性に関する様々な遺伝子やその変異が明らかになると期待されています。

【文献】


1) Parker HG, et al:Science. 2004;304(5674):1160-4.
2) Savolainen P, et al:Science. 2002;298(5598):1610-3.
3) Takeuchi Y, et al:Anim Genet. 2009;40(5):616-22.
4) Masuda K, et al:J Vet Med Sci. 2004;66(2):183-7.
5) Sutter NB, et al:Science. 2007;316(5821):112-5.

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