実は,21世紀になってから進められている漢方にまつわる諸事の標準化は,WHO(世界保健機関)とISO(国際標準化機構)の関係で国際的に始められた。
まず,WHOは次回改訂予定のICD-11に伝統医学の章を作成することを計画しており,日本─中国─韓国間で,共通用語の定義の標準化作業が進んでいる。この作業は東洋医学関連の学会や施設の集まりであるJLOM(Japan Liaison of Oriental Medicine)が人的な協力をしている。ISOは電気分野を除く工業分野の国際規格を,専門委員会(TC)の中で討論・策定するための民間の非政府組織である。漢方関係では,2009年に中国が設立申請をしたTC249が漢方薬の原料,製造法の標準化,鍼灸の規格や関連電子機器,用語の標準化を検討しており,わが国の関連企業とJLOMが協力して作業にあたっている。
ところで,舌診(舌の観察)は視覚で判断する漢方の伝統的診断であり,舌から身体の種々の情報が得られる。舌診は舌の色や形で診断するが,診断法を学ぶまでに時間を要し,光源などの外的要素にも影響されるため,注意を要する診断法である。近年,診断の自動化をめざし,各国で舌診撮影解析機器の開発が進められている。筆者らもわが国で唯一の機器を開発しているが,この機械がISOの標準化の対象として挙がっている。この分野は進歩の途中であることから,色や形態に影響のある因子の標準化が検討されている。近い将来,このような機械を使った舌診による病態把握が,東洋医学になじみのない人にも気軽にできる時代がくるかもしれない。
【解説】
並木隆雄 千葉大学和漢診療学診療教授