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【識者の眼】「世の中にトンデモ医療本があふれる理由」倉原 優

No.5090 (2021年11月13日発行) P.60

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)

登録日: 2021-11-02

最終更新日: 2021-11-02

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某ネットショッピングサイトで「新型コロナワクチン」と入力すると、おすすめ商品として表示される書籍8つのうち、半数以上が反ワクチン本だった。コロナ禍に限ったことではないが、これまでも『長生きしたければ〇〇しなさい』『健康になりたければ〇〇しなさい』という本は山のようにあった。そのどれもが、非科学的なものであり、完読に値しない。トンデモ本が出版され続ける理由は、過激なタイトルの本ほどよく売れるからである。利益を出すことは出版社にとって優先事項である。また、「他の出版社もやっている」という、「赤信号みんなで渡ればこわくない」のような感覚が、出版の閾値を下げている面もあるだろう。そのため、世の中の一般向け医療本は、専門家よりもデマゴーグが書いた本のほうが多いのだ。

SNSは、いろいろな情報を得るための重要なプラットフォームになった。しかし情報の質は玉石混交であり、便所の落書き以下の情報さえある。私が懸念しているのは、SNS世代の若者が、人生において踏んではいけない「罠」がオンライン上で増えていることだ。若かりし頃にSNSで罠にかかり、大人になってもネットショッピングや本屋で罠にかかる。罠を回避するためには、相応の情報リテラシーが問われる。

実現は難しいと思うが、医療に関する本については、第3者機関による評価や公的機関の何らかの規制が必要と考えている。健康本は医師が執筆しているのだから一定の信頼性が担保されている、という前提になっているが、その医師の知識がトンデモだった場合、できあがる健康本はひどいものになる。言論の自由という側面で、賛否両論は出版されてよいと思う。しかし、明確なデマ本をあたかもアンチテーゼであるかのごとく出版する行為は、許されるべきでない。本来受けられるべき医療で助かったはずの命が、これらによって助からなかったとき、それを自己責任で済ませてはならない。

倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS]

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