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下痢[今日読んで、明日からできる診断推論 実践編(15)]

No.4713 (2014年08月23日発行) P.33

監修: 野口善令 (名古屋第二赤十字病院 副院長・総合内科部長 )

小林健二 (聖路加国際病院附属クリニック聖路加メディローカス一般内科医長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-27

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  • 病 歴

    27歳,男性,会社員。主訴は下痢と血便。
    2日前から下痢が始まった。便の性状は泥状から時に水様で,血液が混じっていた。排便回数は1日に4~5回で,特に排便前に下腹部痛を伴うことがあった。発熱はなかった。

    スナップ診断

    20歳代,男性の急性発症の下痢であり,まず感染性腸炎を考える。血便を伴うことから,特に大腸型の感染を起こす赤痢,カンピロバクター,サルモネラ,病原性大腸菌〔腸管侵入性大腸菌(EIEC),腸管出血性大腸菌(EHEC)〕などによる腸炎が鑑別に挙がる。発熱がないことから,赤痢,カンピロバクター,サルモネラなどの侵襲性細菌感染よりEHEC感染が疑われる。また,寄生虫感染であるアメーバ腸炎も粘血便をきたすため,鑑別疾患に含めるべきである。


    分析的アプローチ

    ■なぜその疾患名が挙がったのか

    本症例は下痢の期間が2週間以内の急性下痢である。急性下痢の原因として最も多いのは感染性腸炎である。その中で血便をきたす疾患として,大腸型の感染を起こす赤痢,カンピロバクター,サルモネラ,病原性大腸菌(EIEC,EHEC)などによる腸炎が挙げられる。侵襲性細菌の感染では発熱をきたすことが多いが,本症例では発熱がないため,EHEC腸炎の可能性が考えられる。喫食歴,海外渡航歴などの確認が必要である。
    アメーバ腸炎の場合,細菌性腸炎と比較して緩徐に発症し,肝膿瘍の合併がないと発熱はない。そのため,本症例でも鑑別すべき疾患として考慮すべきである。アメーバ腸炎の場合,男性同性愛者間での感染があるため,海外渡航歴に加えて性的指向の確認も大切である。同じくクロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile infection:CDI)でも,稀に血便をきたすことがある。過去3カ月以内の抗菌薬使用歴や最近の入院歴などを確認する必要がある。
    急性下痢で血便をきたす疾患として,上記以外に想起されるものには薬剤性腸炎,虚血性腸炎などがある。
    炎症性腸疾患は若年者での発症が多い。この時点で鑑別疾患の筆頭にはこないが,見逃してはいけない疾患に挙げられる。患者からよく話を聞くと,下痢,血便をきたす前から軟便の傾向があることもあり,その確認は必要である。

    私のクリニカルパール

    急性下痢の原因としては感染性腸炎が圧倒的に多い。先進国における感染性腸炎の原因としてはウイルス感染が大半を占める。本症例のように血便を伴う場合には,まず大腸型の感染性腸炎を疑う。

    残り1,836文字あります

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