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呼吸困難[今日読んで、明日からできる診断推論 実践編(13)]

No.4710 (2014年08月02日発行) P.47

監修: 野口善令 (名古屋第二赤十字病院 副院長・総合内科部長 )

尾田琢也 (飯塚病院総合診療科)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-28

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  • 病 歴

    70歳,男性。1カ月前より労作時呼吸困難を自覚し,外来を受診した。屋内では呼吸困難を自覚することはないが,屋外では歩くだけで息が切れるため休まないといけない。
    呼吸困難のため,臥位で眠ることができず,この1週間は座ったまま眠ることが多かった。また,夜間には咳がひどくなり,呼吸困難を感じて目覚めることがあった。1年前は畑仕事をしても呼吸困難を自覚することはなかったが,最近は体重も増加し,足も腫れやすくなった。このような症状は初めてである。
    胸痛なし。発熱なし。咳はあるが,喀痰なし。最近の入院なし。薬剤の変更なし。

    スナップ診断

    「1カ月前からの労作時呼吸困難」という情報だけではスナップ診断は難しいが,「体重増加」「下肢浮腫」というキーワードから,うっ血性心不全が疑われる。


    分析的アプローチ

    1年前は呼吸困難の自覚がないため,1カ月前より新たに生じた変化と考えられる。
    呼吸困難は主観的な症状であるため,呼吸困難がADLに与える影響について詳細に聴取することが重要である。また,呼吸困難のエピソードは今回が初回か,以前にもあったかを確認することが重要である。特に,気管支喘息,COPD,虚血性心疾患の既往があれば,基礎疾患の増悪により呼吸困難をきたしていることが多い。
    まず,随伴症状を確認し,胸痛があれば,急性冠症候群,気胸,急性肺塞栓症などの致死的疾患を考える。しかし,急性冠症候群や急性肺塞栓症の患者の中には,胸痛がなく,呼吸困難のみを訴える者がいる1) ことに注意する。発熱があれば,肺炎や過敏性肺臓炎を疑う。発作性夜間呼吸困難は,心不全患者だけでなく,COPD患者でもみられる。血痰があれば,急性肺塞栓症,肺結核,肺癌を考え,咳と喀痰の量・性状について確認する。膿性痰であれば肺炎を疑い,白色またはピンク色で泡沫状喀痰であれば心不全を疑う。

    ■なぜその疾患名が挙がったのか

    呼吸困難の原因となる疾患のカテゴリーとして,上気道の問題,肺疾患,心疾患,神経疾患,中毒・代謝異常に分け,まずは致死的疾患を除外する。
    上気道の問題:アナフィラキシー,気道異物,血管浮腫,喉頭蓋炎などが挙がるが,いずれも突然発症もしくは数日単位の発症様式であり,1カ月という本症例の経過には合わない。
    肺疾患:急性肺塞栓症,COPD,気管支喘息,気胸,肺炎,非心原性肺水腫などが挙がる。急性肺塞栓症と気胸は突然発症で,致死的疾患である。安定したCOPDは慢性の呼吸困難の原因となり,急性増悪時には数日単位で呼吸困難が増悪する。
    心疾患:急性冠症候群,急性非代償性心不全,心筋症,不整脈,弁膜症,心タンポナーデなどが挙がる。
    神経疾患:脳卒中,神経筋疾患などが挙がる。
    中毒・代謝異常:サリチル酸中毒,一酸化炭素中毒,代謝性アシドーシス,糖尿病性ケトアシドーシス,敗血症,貧血などが挙がる。
    本症例では,起坐呼吸(LR 2.2[1.2~3.9])と発作性夜間呼吸困難(LR 2.6[1.5~4.5]),体液量増加を示唆する体重増加や浮腫があり,まず心不全を疑う2)。発症様式や持続期間から,COPD,気管支喘息,間質性肺炎も考えられる。致死的で,これらの疾患に併存する可能性があるものとして,急性冠症候群と急性肺塞栓症を挙げた。

    私のクリニカルパール

    呼吸困難がADLに与える影響を確認し,症状がどのように変化してきたかに注意する。
    まず,病歴から除外できる致死的疾患を考える。
    胸痛がなくても,呼吸困難の鑑別疾患に急性冠症候群と急性肺塞栓症を入れる。

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