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消化器疾患に対する心身医学的アプローチ 過敏性腸症候群の病態生理:IBS beyond the mucosa [学術論文]

No.4793 (2016年03月05日発行) P.44

富永和作 (大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学准教授/消化器心身医学研究会幹事)

藤川佳子 (大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学/同大学院国際消化管研究センター)

荒川哲男 (大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシアなどの機能性消化管疾患の病態生理には,中枢神経系と消化管との間に遠心性神経と求心性神経とで展開される相互作用,脳腸相関の中での機能変調が一義的に重要である,とされている。つまり,どちらが先かは別として,中枢での心理的異常,消化管での運動機能異常や知覚過敏性などが関与していることに違いはない。消化管粘膜面には変化が現れなくても,消化器症状を伴うからには,粘膜深層を含めたミクロの世界,つまり,種々の細胞レベルあるいは分子レベルにおいて,何らかの変化が存在することが予測される。今回,粘膜表面を超えて(beyond the mucosa),粘膜下組織あるいは粘膜筋層に存在するいくつかの細胞に焦点を当て,IBSの病態生理における役割・位置づけについて概説する。

    1. 過敏性腸症候群(IBS)と脳腸相関

    過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の有病率は,一般人口の約10%であり,消化器領域のcommon diseaseの1つとして認知されつつある1)。2014年には,日本消化器病学会からIBSに対する診療ガイドラインも発刊され2),IBSの病態生理には,中枢側要因としてのストレスや心理的異常,消化管側要因としての腸内細菌や粘膜炎症,介在物質としての神経伝達物質や内分泌物質が関与する,と示されている。IBS患者は日常的・非日常的ストレスを強く感じ,そのことが誘因となり不安,緊張,抑うつなどの心理的異常が惹起される。医学部学生や看護師を対象にした研究の中で,IBS患者では日常生活において不安や抑うつなどのストレスを強く感じていることや3),幼少期に受けたトラウマがIBS発症に関連している4)5)ことがその根拠となる。一方,消化管においては,消化管運動異常に伴う便通異常,内臓知覚過敏として下腹部痛,ガス,腹部膨満感などが現れる。中枢性ストレスと消化管とは,双方向性に影響することは古くから知られており,このことがまさに脳腸相関と言われる所以である(図1)。消化管環境を考えるにあたり,消化管粘膜下層や腸管神経叢にある種々の細胞の役割が重要となる。つまり,慢性的なストレスは,粘膜下層での肥満細胞(mast cell)を増加させ,腸管バリア機能調節や粘膜透過性に影響し,バリア機能の破綻による腸内細菌の侵入が粘膜内炎症を惹起する。これら一連の病態は,腸管神経叢に存在する神経細胞やグリア細胞にまで影響を与え,腸管運動あるいは知覚伝導の亢進(過敏性)をもたらすことが,近年の研究成果として示されるようになった。さらに,粘膜内に存在する腸クロム親和性(enterochromaffin cell:EC)細胞から遊離されるセロトニンも,腸管炎症による影響を受け,IBS患者の粘膜内で変動することが既に報告されている。このように,機能性消化管疾患を診断する際に,最大限の力を発揮する内視鏡でも認識することのできないミクロの世界,粘膜表面を超えた(beyond the mucosa)細胞レベルの世界において,key playerとなる細胞が注目されるようになってきた。本稿では,腸管グリア細胞(enteric glial cell:EGC),肥満細胞,EC細胞とIBSの病態生理との関連について概説する。

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