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酸化マグネシウムとミルクの併用が乳児に与える影響は?【カルシウムアルカリ症候群の恐れはあるか?】

No.4916 (2018年07月14日発行) P.59

冨本和彦 (とみもと小児科クリニック院長)

登録日: 2018-07-14

最終更新日: 2018-11-28

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緩下剤として酸化マグネシウムを大量の牛乳(ミルク)と併用すると高カルシウム血症となる恐れがあると聞きましたが,ミルクを中心に栄養を摂っている乳児が酸化マグネシウムを服用したとき,影響が及ぶ可能性はあるかどうか,ご教示下さい。

(東京都 N)


【回答】

小児期慢性機能性便秘症の維持療法薬としては浸透圧下剤が第一選択とされます。わが国で多用される酸化マグネシウムは同系統のラクツロースより有効1)と考えられますが,副作用としての高マグネシウム血症やミルクアルカリ症候群の発症について,主に高齢者を対象に注意が喚起されてきました。

1915年,Sippyらは消化性潰瘍の治療としてミルクとクリーム,重炭酸ナトリウム,マグネシウムを含んだアルカリを投与し,その有効性を報告しました。以後,この治療法の普及に伴い,高カルシウム血症,代謝性アルカローシス,腎不全,組織カルシウム沈着をきたす例が報告され,これらは1949年にBurnettらにより「ミルクアルカリ症候群」としてまとめられました。しかし,1970年代以降になると非吸収性制酸薬の開発に伴って本症候群は激減します。

1990年代になり,高齢者の骨粗鬆症が脚光を浴び,その予防法としてカルシウムとビタミンDの摂取が推奨されるようになりました。これに伴って本症が再興します。本症は,消化性潰瘍のミルクアルカリ治療から,サプリメントとしてのカルシウム製剤が主たる原因となったことから,「カルシウムアルカリ症候群」と呼称されることもあります。

本症の病態は,まず軽度の高カルシウム血症が発端となります。高カルシウム血症により腎血管が収縮するため腎糸球体血流量が低下し,それに引き続いてカルシウム排泄が低下します。

Henle係蹄においてはカルシウム受容体(Ca sensing receptor:CaSR)の活性化が起こり,renal outer medullary potassium channel(ROMK)を介して尿細管腔内の陽性荷電が減少すると,陽イオンであるナトリウムの再吸収は低下し循環血漿量は減少します。その結果,近位尿細管での重炭酸塩の再吸収が亢進し代謝性アルカローシスをきたしますが,これがさらにカルシウム吸収を促進することになります。また,マグネシウムの投与によりアルカローシスが持続します。このようにして高カルシウム血症と代謝性アルカローシスは相互に悪循環に陥っていきます2)

高齢者では腎機能が低下している例も多いために,高マグネシウム血症をきたしやすく,カルシウム過剰に対する骨の緩衝作用も低下しているため,この一連の反応がきわめて起こりやすいのです。

この発端となる高カルシウム血症は,サプリメントとして摂取したカルシウムが原因となることが多く,食事性のカルシウムは吸収率が劣るために摂取過剰が起こりにくいとされています。実際にカルシウムアルカリ症候群の報告例は,骨粗鬆症の管理・予防のために炭酸カルシウムやビタミンD製剤を長期に摂取している高齢者が圧倒的で,わが国の小児例はダウン症に合併した3歳児の1例3)があるにすぎません。この例ではダウン症が高カルシウム血症の増悪因子となった可能性があります。

「ミルクアルカリ症候群」の名称から,ミルク中心の乳児にアルカリ製剤の併用がリスクであると誤解されやすいのですが,むしろカルシウムアルカリ症候群と理解すべきで,あくまでもビタミンD・カルシウム製剤の投与にマグネシウム製剤(アルカリ)の併用,あるいは高カルシウム血症をきたしやすい基礎疾患のある者がリスクファクターとなります。

一方,わが国の乳児のビタミンDは,若年女性の日光回避の習慣から特に母乳栄養児を中心にしてきわめて不足した状況にあります。いずれは欧米と同様に1歳未満の乳児に対してはビタミンDサプリメントが推奨4)されるようになると思われますが,この場合にはマグネシウム製剤併用例でカルシウムアルカリ症候群が起こる可能性があります。1歳未満の便秘の乳児でマグネシウム製剤を用いなければならないケースは少ないと思われますが,近い将来,併用例では血中カルシウムモニターが必要になるかもしれません。

【文献】

1) 冨本和彦:外来小児. 2016;19(2):141-9.

2) Patel AM, et al:Nutrients. 2013;5(12):4880-93.

3) 齊藤博大, 他:日小児栄消肝会誌. 2016;30(1):14-9.

4) Munns CF, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101(2):394-415.

【回答者】

冨本和彦 とみもと小児科クリニック院長

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