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【シリーズ・製薬企業はどう変わろうとしているのか─各社のキーパーソンに聞く(3)〈大日本住友製薬〉】MRの提案力に磨きをかけ、医師のパートナーとして信頼を勝ち取りたい

No.4914 (2018年06月30日発行) P.12

登録日: 2018-06-29

最終更新日: 2018-06-29

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2018年度薬価基準改定では新薬創出等加算の抜本的見直しや長期収載品の薬価の引下げが行われ、製薬企業はMR(医薬情報担当者)を中心とした営業リソースの再配分を余儀なくされている。製薬企業の針路に迫る本シリーズの第3回は、主力品のパーキンソン病治療薬「トレリーフ」の薬価が市場拡大再算定で15%引き下げられるなど、強まる逆風に対し、組織改編をはじめとする収益力強化に向けた取り組みに着手した大日本住友製薬の小田切斉営業本部長にインタビュー。今後求められる製薬企業の役割と情報活動のあり方について話を聞いた。

―政府が進める薬価制度の抜本改革などの影響で日本市場を取り巻く環境が厳しくなり、製薬企業にとっては情報活動の重要性が増していると思います。しかし本誌のアンケート調査からは現場の臨床医の間で“MR離れ” が進んでいる印象を受けます。こうした状況下で、情報活動をどう進めていきますか。

小田切 製薬企業にとってMRの強化は大きな課題であり、昨年から実践力を高めるために「MRキャンプ」という研修合宿を実施しています。合宿ではMRの基本知識となる添付文書に関する知識を問う筆記試験に加え、実際の面会を想定したロールプレイなども行います。受講者は一定の基準をクリアするまで研修を修了したことにはなりません。
ロールプレイでは添付文書の内容や研究データを一方的にプレゼンテーションするのではなく、コミュニケーションスキルの向上を図っています。医師の先生方が臨床でどんな課題を抱えているかを引き出し、それに対し適切な情報提供を行っていく“課題解決型MR”の育成が狙いです。

安全性を重視した情報活動を展開

―医師の間では、製薬企業からの情報提供は自社製品の有効性に偏りがち、という印象があるようですが、 こうした指摘についてどう考えていますか。

小田切 情報活動における有効性と安全性のバランスは非常に重要です。そこで昨年から約10カ所の営業所で、安全性に特化した情報活動をトライアルで行ってきました。MRと非営業部門のメディカルインフォメーション部が横断的に情報交換をしながら、糖尿病など一部の領域について、通常の情報活動で使うものとは異なる安全性に重きを置いた資材を作成しました。
例えば高齢者の糖尿病であれば、MRが医師の先生方とのコミュニケーションを通じ、低血糖リスクに関する情報のニーズがあると把握しました。そうしたニーズに応えるため低血糖への対策などリスクに関する知見や使用成績調査の結果をまとめた資材を新たに作成し、情報提供を行いました。トライアルで実施した10カ所の営業所からはとても好評だったので、現在では全社的に活用しています。
もちろん安全性だけでなく効果を分かりやすく知りたいという声もあります。大切なのは先生方が何を求めているか、患者さんが何に困っているのかをしっかりと聞き出し、適切な情報を提供していくことです。ニーズに対しどう柔軟に応えていくか、これからのMRに必要なのは提案力だと考えています。

―医療機関が面会制限を設けるなどMRの訪問自体が難しくなってきている中で、対策はありますか。

小田切 訪問回数を重視する従来のSOV(Share Of Voice)の考え方から脱却し、訪問回数は少なくなっても一度の面会で濃密な情報交換をできるような意識改革が必要です。
将来的には「Skilled Upライブラリ」などデジタルツールの活用や、疾患分野に対する高い知識を持つMSL(メディカルサイエンスリエゾン)など情報提供のチャネルは多様化していくと思いますが、現時点ではMRが中心であることに変わりはありません。
例えば糖尿病治療薬「メトグルコ」はすでに上市後かなりの年月が経ちますが、現在でも副作用の乳酸アシドーシスの啓蒙などに力を注いでいます。乳酸アシドーシスの副作用の自発報告を見ると、多くが我々のMRが収集してきた情報であるように、安全性を重視した情報活動を心がけています。

リスクにチャレンジできる経営予見性の担保を

―今般の薬価制度の抜本改革についてどのように見ていますか。

小田切 製薬業界としてはイノベーションを生み出すために、長期収載品についてジェネリックへの置き換えを推進するなどの薬剤費削減に向けた取り組みに合意してきました。しかし18年度改定では、新薬創出等加算の要件が厳格化されるなど薬価の引下げだけに焦点が当てられ、バランスを欠いているという印象は拭えません。社会保障全体で適正化していく視点が必要だと思います。
新薬創出等加算の見直しで、特許期間中の新薬であっても要件を満たさなければ改定ごとに薬価が引き下げられ、経営の予見性は大きく損なわれることになります。今改定では品目数ベースで30%以上も対象品目が減少しました。もちろん価値の高い医薬品を開発することは製薬企業に課せられた使命です。ただ新薬開発に成功する確率は3万分の1とも言われ、リスクにチャレンジするには制度として少なくとも中期的な予見性は担保していく必要があると思います。

―新薬創出等加算の見直しではイノベーションについて、希少性や革新性、有用性という指標で評価する仕組みになりましたが、この点をどう考えますか。

小田切 医薬品では臨床で使われ始めてから価値が高まっていくCa拮抗薬「アムロジン」のようなケースもあります。十数番目のCa拮抗薬として上市されましたが、半減期が長く、心拍数の上昇も少ないという特徴が臨床の現場で評価され、高血圧治療の代表的な医薬品になりました。ジェネリックが登場するまで長らく主力品として売上を支えてきました。
今回の見直しでは、新規作用機序の初収載品から「3年以内・3番手」までという要件を満たさない医薬品は加算の対象から除外されます。アムロジンのような臨床的に価値が高いものを開発した場合でも、改定ごとに薬価が引き下げられてしまう。こうした医薬品をどう評価するかという課題もあると感じています。

スペシャリティ領域での情報活動が重要に

―今後の新薬開発で重視する分野を教えてください。

小田切 国内市場での我々の売上はこの5年間で1700億円台から1400億円台にまで縮小してきました。売上が落ちているということは、日本の患者さんへの貢献度合いが低下していると考えることもできます。そこで精神神経、がん、再生・細胞医薬の3つを新薬開発の重点領域に位置づけ、改めて主戦場である日本市場への投資を強化していきます。
2021年度からはがん治療薬など有力なパイプラインが上市されてきます。スペシャリティ領域での情報活動が重要になるので、MRのコミュニケーションスキルを磨き、医師をはじめとする医療関係者の方々の信頼を得られるよう努力していきたいと考えています。

 

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