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改正医療法による新広告規制 保険医療機関が注意すべきポイント(弁護士・齋藤健一郎)

No.4913 (2018年06月23日発行) P.6

齋藤健一郎 (渥美坂井法律事務所・外国法共同事業弁護士)

登録日: 2018-06-22

最終更新日: 2018-06-21

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2018年6月1日から、医療機関のウェブサイト等1)について、法令による規制が始まっている。これまでとの一番大きな違いは、違反に対して行政処分(中止・是正命令)が行えるようになったこと、刑事罰を科すことができるようになったことである。これまで医療機関のウェブサイト等については、法令による規制の対象ではなく、自主的に取り組むべき目標として「医療機関ホームページガイドライン」が設けられていたに過ぎなかった。
しかし今後、医療機関は、そのウェブサイト等について、法令に違反していないかを確認し、適切な対応を行う必要がある。
本稿の目的は、①医療機関のウェブサイト等に対する新たな規制の内容、②規制に違反した場合のリスクについて、法令の細部に立ち入ることなく、その概要を医療機関の関係者に理解していただくことにある。
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士・齋藤健一郎

新たな規制の内容

規制が行われることとなった経緯

これまで医療機関のウェブサイト等は、「情報提供」や「広報」として扱われており、原則として医療法により規制される「広告」には当たらないとされてきた。しかし、美容医療に関する相談件数が増加傾向にあったことから、2015年7月、消費者委員会2)は、医療機関のウェブサイト等に対する法的規制が必要である旨の意見表明を行った。

これを踏まえ、2017年の通常国会において、医療法等の一部を改正する法律(平成29年法律第57号)が成立し、医療機関のウェブサイト等についても、「広告」として、法規制の対象とされることとなった。
なお、改正のきっかけは美容医療であったが、法規制は、美容医療のみならず、保険診療を行う医療機関のウェブサイト等にも及んでいる。

規制の内容

2018年6月1日以降、医療機関のホームページ等は、医療法による広告規制の対象となっている。規制の内容は次のとおりである。なお、規制の内容については、保険診療のみを行う医療機関への影響の度合いを筆者が独自に評価し、項目ごとにその評価を記載しているので、参考とされたい。

広告可能な事項の限定(影響度:小)

医療法及び広告告示は、医療機関が広告を行うことができる事項を13項目に限定している3)。例えば、病院又は診療所の名称、電話番号及び所在地、診療科名、診療日、診療時間等が広告可能とされており、13項目以外の事項については広告ができない。ウェブサイト等についてもこの規制が適用されることとなるため、例えば、治療の方針に関する院長の考え方などをウェブサイト等に掲載することは原則としてできないこととなる。

しかし、患者が知りたい情報が得られなくなるとの懸念があったため、「医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合4)」には広告可能な事項が限定されず、幅広い事項を広告することができることとされた。

そして、厚生労働省令(医療法施行規則第1条の9の2)は、幅広い事項を広告することが可能となる場合として以下の4要件(以下「限定解除の要件」という。)を定めている。

①医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
②表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
③自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
④自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

これらの条件のうち、③、④は自由診療を前提としており、保険診療のみを行う医療機関であれば、①、②を満たせば、広告可能事項は限定されないこととなる。

そして、保険医療機関のウェブサイトであれば、①の要件を満たすことが想定され、また、②問い合わせ先もウェブサイト上に記載されていることが通常であろうから、特段の対応を行わなくとも広告可能事項の限定が解除されている場合が多いように思われ、改正の影響は大きくないものと思われる。

もっとも、①医療に関する適切な選択にまったく資することがない情報を記載しており、また、②問い合わせ先を記載していないウェブページ等があった場合には、そのような情報を削除するとともに、問い合わせ先を記載するなどの対応が必要となる。


1)    医療法第6条の5は、「広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」を広告と定義し、医療広告ガイドラインでは、①患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)、②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)の要件をいずれも満たす場合に「広告」に該当するとして、広告該当性の判断基準を示している。これらの要件を満たす医療機関のウェブサイト、医療機関が運営するSNS、院長やスタッフのブログ等はいずれも広告に該当し、規制の対象となる。

2)    各種消費者問題について調査・審議を行い、関係省庁に意見表明(建議)をすることなどを目的として2009年に内閣府に設置された委員会

3)    広告可能事項については、医療法第6条の5第1項及び「医業、歯科医業若しくは助産師の業務又は病院、診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項(平成19年厚生労働省告示第108号)」(広告告示)を参照されたい。

4)    医療法第6条の5第3項「第1項に規定する場合において、次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては、次に掲げる事項以外の広告をしてはならない。」

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