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【私の一曲】His eye is on the sparrow(いちわのすずめ)

No.4911 (2018年06月09日発行) P.67

三道ひかり (東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学専攻国際地域保健学教室)

登録日: 2018-06-05

最終更新日: 2018-11-28

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ゴスペル賛美歌。映画「天使にラブソングを2」で使用されたことでも有名。写真は楽譜を収録した「ボーカルスコア天使にラブソングを2/ピアノ&ボーカル」(ヤマハミュージックメディア)

一つの曲が紡ぐ、時間、国、命を超える物語

私は高校1年生で聖歌隊に入隊し、様々な賛美歌に触れてきた。時は流れ、大学卒業間近となった頃、アメリカ留学が決まった。そうして聖歌隊の活動にもしばしの別れがやってきた。「ひかりさん、餞別として賛美歌をお送りしたいのだけど、何がいいかしら?」。仲間にそう言われ曲を選んでいると、ふと夏のコンサートで爽やかに歌った“いちわのすずめ”が思い出された。「声高らかに我は歌わん」(私は聖歌隊で歌うことを覚えた。これから異国の地においても歌い続けたい…)。壮行会で“いちわのすずめ”が私のためだけに歌われた。聖歌隊が声高らかに歌う姿が私の胸に迫った。

渡米後、大学院に入学。そして在宅ホスピスで音楽療法の臨床を始めた。この地で、死と向き合うホスピス患者さんへ歌う日々のなかで、終末期を生きるマリアと出会った。彼女は物静かで敬虔なクリスチャンであった。マリアのために“His eye is on the sparrow”を歌いかけた。最初は目を閉じながら聞いていたマリアだが、徐々に口が開き始め、“I sing because I’m happy,I sing because I’m free”と歌った(マリアの心にも歌詞が生きている…)。異国アメリカの地で思いがけず、思い出の曲によって心通った瞬間だった。

大学院を修了し、日本に帰国。再び日本の日常が始まってしばらくした時、“His eye is on the sparrow”を友人の結婚披露宴で歌う依頼を受けた。披露宴当日、友人を前に“I sing because I’m happy,I sing because I’m free”と歌う時、留学前に贈られた音、マリアのために歌った音、そして今祝福のために歌う音が繋がった。国も時間も、生も死も超越し生き続ける音楽。この曲は後に私の家族へと歌い継がれ、この物語はさらに続いていくだろう。「I sing because I’m happy,声高らかに我は歌わん」。

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