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オンラインという選択肢は患者さんのメリットになる[スタートアップ!オンライン診療(3)]

No.4910 (2018年06月02日発行) P.14

登録日: 2018-06-01

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2018年度診療報酬改定では「オンライン診療料」が基本診療料の1つとして新設された。きっかけとなったのは15年に厚生労働省が全国に送付した事務連絡。地域や対象疾患を限定しないとの見解が示され、遠隔医療サービスを提供する動きが活発化した。第3回は、黎明期とも呼べる16年初頭からオンライン診療に取り組むクリニックの事例を紹介し、オンライン診療が日常診療にもたらす効果と可能性について考えてみたい。【毎月第1週号に掲載】

 

東京・六本木にある新六本木クリニックでは、オンライン診療を開始してから2年以上が経過した。すでに患者数は1000人に達し、数百症例が集まっている。院長の来田誠さんは精神科の専門医だ。

精神科に通う患者は、ちょっとしたきっかけで通院しなくなることが多く、来田さんは病院勤務医時代から治療継続率の向上が課題という意識を強く持っていた。元来精神科領域は医師と患者のコミュニケーションが治療の中心となることから、医学的にオンラインとの相性が良いとされ、米国では精神科のオンライン診療が普及している。来田さんは日本医療研究開発機構(AMED)で「遠隔精神科医療手引書」の作成に臨床グループの責任者として携わっており、対面と組み合わせたオンライン診療の活用方法を模索していた。

「精神科の患者さんは『できれば通院したくない』という思いが根底にあります。例えば強迫性障害の患者さんの場合、症状がある方のうち通院できている方は一部にすぎないという指摘もあります。また通院が一度途切れると、次の受診時に医師から怒られるのではないかと不安になり、さらに足が遠のいてしまうケースが少なくありません。精神科では治療が進むにつれ患者さんの社会的状況が変化していくことにも注意が必要です。休職中は通院がリハビリにもなり順調に改善したとしても、復職すると今度は通院する時間や手間が足枷になってしまうのです。こうした患者さん や、病状が悪化して通院が困難になった患者さんに対して、対面以外の選択肢を用意してあげる必要があると常々考えていました。訪問診療という手もありますが、精神疾患では保険適用が重症者に限定されている上に、時間的な制約が大きく、診療できる人数が限られてしまうという問題がありました。そんな中、15年の事務連絡でオンライン診療を実施しても構わないという“お墨付き”が出されたので、開業してオンライン診療の提供を始めたのです」(来田さん)

フルスペック型のオンライン診療システム

来田さんが導入しているツールは、(株)メドレーの「CLINICS」(https://clinics.medley.life/)。診察予約や問診、ビデオ通話システム、クレジットカードを用いた診療費の決済、薬の発送まで一連の流れを一体化した“フルスペック”型のオンライン診療を提供するアプリだ。

CLINICSでは患者が予約を取る際、初診は対面が原則の保険診療では初回の予約で「オンライン」を選択できないようにするなど適切な運用を支援する機能を搭載している(図)。



問診機能では、診療科ごとに質問がカスタマイズされており、医師は診察前に必要な情報を得ることができる。画像や検査結果などの資料のやりとりもできるため、オンラインであっても対面診療と遜色ない状態で診療に臨むことが可能だ。

中でも来田さんが高く評価するのは、医療機関と患者双方に対するサポート体制が整備されている点。「各医療機関に個人の担当者がつき、システム面でのサポートや使い勝手に関する要望などにも柔軟に対応してくれます。患者さん専用のコールセンターもあり、ダウンロードのやり方から丁寧に説明してくれるので、クリニックに問い合わせが来たことはほとんどありません」とそのメリットを強調する。「また医療機関には月額利用料(5000円~)が発生しますが、患者さんに新たな負担をお願いする形ではないので、費用がネックとなって治療が中断するようなことはなく、治療継続率も高くなっています」

自宅での生活習慣を把握できる

診療の場面で来田さんがオンライン診療ならではの効果を感じているのは、自宅での患者の日常の様子が把握できるところ。「オンラインで自宅の患者さんを診ると寝間着のままだったり、昼間なのにカーテンが閉まっていたりすることがあります。外出するときは『ちゃんとしなきゃ』という意識が働き、身なりもしっかり整えて来院するので、外来ではこうした生活習慣はなかなか分かりません。生活習慣病だけでなく精神疾患でも生活習慣による影響は大きいので、とても有効な情報だと思っています」

このほか患者と治療についての理解を共有するためにもオンライン診療は効果的と指摘する。

「例えば『来月は経過観察なのでオンラインで構いませんよ』と言えば自分の状態が安定していると分かりますし、『血液検査や定期的な心理テストをするのでご家族と来院してください』と言えば通院する理由が理解しやすく、対面と組み合わせることで治療の効果が高まっています。患者教育や疾病教育という視点でもオンライン診療は有効です」(来田さん)

臨床医の立場からエビデンスを発信していく

オンライン診療のさらなる普及に向け、来田さんは4月に臨床医による「オンライン診療研究会」を立ち上げ、事務局長に就任した。研究会では今後、エビデンスの構築や情報発信を積極的に行う方針だ。

「例えば精神科領域では、4月の改定で保険適用とならなかったうつ病や不安神経障害などの疾患に関して、オンラインでどのような治療を行い、どのくらい効果があったのかを研究会でまとめ、次期改定に向けて様々なステークホルダーに働きかけをしていく予定です。これまでの2年間、オンラインという選択肢が増えたことで、患者さんの治療効果が上がり、幸福度を高めてきました。誤解されることが多いのですが、オンライン診療は対面に置き換わるものではありません。あくまで診療の幅を広げる1つのツールとして捉えてほしい。たくさんの患者さんにオンライン診療のメリットを感じてもらうために、早くから取り組んできた我々が先導し、環境を整備していかなくてはいけないと考えています」(来田さん)

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