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医療の進歩、患者の人生、医師の歩み[プラタナス]

No.4910 (2018年06月02日発行) P.3

中里信和 (東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野教授)

登録日: 2018-06-01

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  • 医療は進歩する。どんな病気でも未来には治療法があると信じたい。けれども人生は短い。医療の進歩や主治医の判断力向上が間に合わないケースもあるだろう。幸いにも、この患者はぎりぎり間に合ったケースだと思う。

    てんかんは赤ちゃんからお年寄りまで誰もが発症しうる疾患だ。有病率約1%。日本には約百万人。薬で発作が消えない場合は手術を考えるが、切除部位に脳の重要な機能がないことが条件になる。

    患者は右利きの女性。3歳で全身痙攣を発症し、くも膜嚢胞という良性疾患が左中頭蓋窩にあった。嚢胞開放術を小児期に受けたが、発作は続いた。私が最初に診た時、高校生だった患者は薬による眠気とふらつきで将来に希望が持てないと話していた。てんかんの外科治療はまだ普及していなかった。

    その後、私は米国に留学し脳磁図や脳表電気刺激など、てんかんと脳機能マッピングの研究を行って帰国した。22歳になった患者の薬を、妊娠への影響が少ないものに変更した。患者は無事に女児を出産できたが発作は続いており、その初期症状は失語だった。言語野なので手術は無理だと判断していた。

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