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医業経営ツールボックス 閉院編 Vol.6

◆Vol.6 ビル診(賃貸)を継承者に譲渡は可能か?

都内近郊私鉄駅前ビル(賃貸)で20年間クリニック(非医療法人)を順調に経営してきましたが、引退のため閉院を考えています。
閉院時には、現状復帰義務が発生するため、できれば継承希望者を捜し居抜きで譲渡したいのですが可能でしょうか?

まず、ビルオーナーの承諾を、その後、譲渡価格の査定を行いましょう。譲渡価格は欲をかかないこと、これがスムーズな継承の必須条件です。

都内近郊の駅前ビル診とのことで、立地としては好条件で盛業なさっておられたものと推察いたします。
お申し出のように、賃貸ビルの退去の場合は、賃貸借開始時の状態に戻す義務が発生いたしますので、継承者がみつかればそのまま利用してもらうことは、継承者にとっても低予算の開業が可能となり大変魅力的な物件となるでしょう。(一定の条件はありますが)

但し、自己所有でない物件の場合、継承者捜しを始める前に物件オーナーに承諾を得ることが必須となります。オーナーの意向が全く別な場合がありますので、忘れずに行ってください。承諾が得られた後は、広告や知人への声掛けなどで幅広く告知しましょう。
20年間築き上げた大切なお城です。信頼できる継承者を探すことが何より大切とお考え下さい。

告知にあたり譲渡価格設定が必要です。では、賃貸物件の場合何が譲渡できるのか?この点をご説明いたします。
一般論(非医療法人)での提示になりますが、内装・医療機械(自己所有の場合)・備品・残存医薬品・営業権が譲渡価格設定の段階で重要となります。以上5点について、それぞれ査定を行います。

内装は何年前のものか?医療機械の製造年は?各種備品の状態は?を検証します。申し上げるまでもなく、この3点に関しては、経過年数が長い物は譲渡価格に入れることは難しいとお考え下さい。内装では、クロスやカーテンの色やけ・シミ、備品の破損・シミはNGです。

医療機械は製造後7年以上経過したものは使用できても価格設定は難しいとお考えください。それより新しいものでも、中古となりますので、当初購入価格の1割程度が妥当と思われます。また、譲渡にあたっては、製造メーカに通知することをお薦めいたします。中古医療機器の譲渡に関する詳細は、「Vol.2 閉院によるクリニック譲渡(賃貸)時の医療機械の扱い」で詳細にご案内しておりますので、ご覧ください。

残存医薬品に関しては、有効期限内のものであれば譲渡可能ですが、継承者の診療科目・希望により左右されますので、場合によっては価格に含まず、別途相談もお薦めです。

最後に営業権(のれん代)ですが、高く設定したいというお気持ちが当然ですが、大半は収入の3ヵ月分相当が相場とお考えください。
カルテに関しては、非医療法人の場合譲渡の対象となりませんのでご承知おき下さい。

以上を決定し、最良な継承者探しのスタートとなります。
この手順を経ずに継承者探しを行ってしまった場合、オーナーからのクレームや譲渡価格が不明瞭なための継承希望者とのトラブルが発生することがあります。
トラブルの一例ですが、閉院をお考えになられた当初に、先生方から「無償で良いので、患者さんのために継承してくれる人を探したい」という言葉を伺います。しかし、最終的な段階では全て無償にはなりにくく、お話が違うことから交渉決裂という事例も耳にします。
患者様に不自由をかけたくないため良い方を探したい、また開業希望者の助けになればといった大変有り難いお気持ちなのですが、最後までその気持ちを継続なさる確信が持てない場合は、少しお待ちください。大切なお城です、欲をかかず適切な価格で譲渡するお気持ちでおられて良いかと思います。もし、継承者探しの中で「この方なら」と思えるドクターに巡り合えたとき、改めて無償譲渡を考えていただけば十分間に合うのではないでしょうか。

今回は、ご質問が非医療法人の譲渡でしたので、医療法人の場合の譲渡は後日ご紹介いたします。ご期待ください。

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